【第58回】なぜ牛は「ウロウロ」するの?行動から読み解くメッセージ

元教師の食育解説
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こんにちは!土佐あかうし先生🐂です。

先日、ハッチの子牛を見回っていて、足が止まりました。ミルクのあとの子牛は、たいてい寝て過ごします。ところがその子だけ、右へ左へ、同じところを何度も行ったり来たりしていたのです。

動物園で、ライオンやクマが檻の中を往復しているのを見たことがあるでしょうか。あれと同じ動きです。今回は、この牛の「ウロウロ」の話をします。


■ 常同行動——草食動物ではあまり見ない動き

同じ場所を同じように行ったり来たりする動きを、常同行動といいます。動物園の肉食動物でよく見られる、ストレスを感じたときに出る行動として知られています。

ただ、それは肉食動物の話です。草食動物は常同行動をあまりしません。正直に書くと、あの動きが何によるものなのかは私にもわかりません。ミルクの量なのか、暑さなのか、隣の子牛との関係なのか。

それでも、ひとつだけ言えることがあります。あの子牛が何かにストレスを感じているのは間違いないということです。原因はわからない。でも、伝えようとしていることは確かにある。


■ ウロウロは、牛のことば

牛はしゃべりません。だから体の動きが、そのまま言葉になります。立ったり座ったりを繰り返す。柵際をずっと歩いている。毎日同じ時間に同じ牛舎を歩いていると、「今日はこの子、いつもと違うな」が先に目に入ってくるようになります。

ただ、ここが難しいところで、ウロウロの意味はひとつではない。放っておいていいものもあれば、すぐ動かないといけないものもあります。動きは似ていても、中身がまるで違うのです。


■ 発情のウロウロ——歩数は嘘をつかない

多くて、そしてありがたいのが発情です。

農研機構の研究では、黒毛和種に歩数計をつけると、発情が始まった時点で歩数が急に増え、そこから約10時間は普段より明らかに多いという結果が出ています。しかも、外から見ただけでは発情とわかりにくい鈍性発情の牛でも、歩数の増加はきちんと表れました。

さらにこの研究では、歩数が増え始めた時点を発情の始まりとみなして16±4時間後に人工授精をしたところ、はっきり発情行動を示した牛と同じくらいの受胎成績が得られたと報告されています。

つまり歩き回るという行動そのものが情報だということです。見逃せばそのまま一周期、二十日以上を空けてしまいます。


■ お産のウロウロ——寝て起きてを繰り返すのは正しい

もうひとつ大事なウロウロが、分娩前のものです。

岩手県が出している資料では、分娩第1期(開口期)に見られる母牛の変化として、乳房の張り・尾の拳上・陣痛と並んで「寝起きを繰り返す」が挙げられています。陣痛が始まっておよそ30〜60分後から、この寝起きが増えてきます。

面白いのはその意味で、同じ資料によれば、母牛の自由な寝起きがお腹の中の子牛の向きを整えている。逆に寝起きが不自由だと、胎子の失位や難産の原因になると書かれています。

つまり分娩前のウロウロは、止めてはいけないウロウロです。狭い場所につないだままにしない。滑らない床を用意して、母牛が自分の判断で寝たり起きたりできるようにしておく。それがそのままお産の安全につながります。


■ 危ないウロウロもある

一方で、放っておけないものもあります。

夏がそのひとつ。熊本県の試験研究では、最高温湿度指数(THI)が72を超えた時期に、乳用牛の採食時間と横臥時間がどちらも有意に低下したと報告されています。乳牛のデータではありますが、暑いと牛は横になれないという点は牛舎で見ている実感と一致します。

そして、いちばん急ぐのが尿石です。尿が出せなくなる病気で、雄や去勢牛に多く出ます。痛みで後ろ足でお腹を蹴る、座ってはすぐ立つ。そこからウロウロがどんどん激しくなり、しまいには走り回ります。北海道・十勝農業改良普及センターの資料でも、尿石症の症状として痛みで腹を蹴る・背を曲げる姿勢が挙げられ、重症になると膀胱や尿道が破裂して死ぬとされています。走り回るところまで来たら、様子を見ている場合ではありません。

このほか、空腹のウロウロ、虫や寝床の不快によるウロウロ、群れの中で居場所を追われている牛のウロウロ。理由は本当にさまざまです。



■ 最後に

発情、お産、暑さ、尿石、空腹。同じ「ウロウロ」でも、中身は全部違います。見分ける方法は、たぶんひとつしかありません。普段のその牛を知っておくことです。いつもの立ち位置、いつもの歩き方を知っているから、ズレに気づけます。

そして、あのハッチの子牛のことは宿題のままです。いまだに答えは出ていません。それでも、右へ左へ行ったり来たりしていたあの動きを、なかったことにはできない。牛は毎日、体で話しかけてきます。私にできるのは、その言葉を取りこぼさないように、今日も牛舎を歩くことだと思っています。


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