こんにちは!土佐あかうし先生🐂です。
前回は、牛の角の話をしました。ただの硬い飾りに見えて、中には血も神経も通っている。表面の輪には、その牛が生きてきた時間が残っている。牛の体は語る、という回でした。
今回は、その時間がはじまるより前の話です。子牛がお腹の中にいる時間と、子牛を抱えている「子宮」の形。人と比べると、驚くほど似ているところと、まるで違うところが出てきます。
■ 人がお腹にいる時間は280日
人の妊娠は、昔から「十月十日」と言われます。
では、実際は何日か。仙台赤十字病院の説明によると、出産予定日というのは妊娠40週0日のこと。最後の生理が始まった日から280日目だそうです。十月十日は、だいたい合っていたわけですね。
■ 教科書では「乳牛280日・和牛285日」
では、牛はどうでしょう。
農業を学ぶ教科書で、まず覚えるのがこの数字です。農研機構(国の農業研究機関)の資料にも、こうあります。「牛は品種によって異なりますが、種付け後、乳牛で280日、黒毛和種では285日位で分娩します」。
人の280日を覚えておけば、和牛はそれより5日長いだけです。
それにしても、体の大きさも、生まれてくる子の大きさも、人とはまるで違います。それなのにお腹の中で過ごす時間はほぼ同じ。ちょっと意外じゃないですか😮
■ ところが、数えてみると291日
ただ、牛舎では「予定日を過ぎたのに、まだ産まれない😥」という声をよく聞きます。
実際に数えた報告があります。宮崎県で生まれた黒毛和種の子牛212頭を調べたところ、お腹にいた日数は平均291.2日。285日より6日長いという結果でした。
ジェネティクス北海道も、2024年から黒毛和種の繁殖カレンダーの妊娠期間を285日から290日に変えました。「黒毛和牛のAI妊娠期間が昨今延長しているためです」とのこと。
なぜ伸びたのでしょう。ここからは、あくまで私の推測です。昔は285日で合っていたのだと思います。ところが黒牛は改良が進み、生まれてくる子牛そのものが大きくなってきました。そのぶん、お腹にいる時間も伸びてきたのではないでしょうか。
いっぽう、あか牛は黒牛ほどには改良が進んでいないように感じます。だから今も285日のまま、予定日どおりに産まれる子が多いのではないか。私はそう考えています。
■ 教科書が間違っていたわけではない
ここで「じゃあ教科書の285日は間違いなの?」と思うかもしれません。そうではありません。二つの数字は、役目が違うだけです。
285日は、みんなが同じ日を計算するための目盛りです。授精した日に285を足せば、誰が計算しても同じ予定日が出る。準備をいつ始めるかを決めるための数字です。私も以前の記事(あか牛と黒牛の分娩傾向と分娩誘起の判断基準)で、この285日を使って予定日の話をしました。
いっぽう291日は、実際に数えたあとの平均です。平均ですから、一頭ずつはけっこうばらけます。
父牛によって変わります。さきほどの212頭の報告では、いちばん長い父牛の子が平均292.8日、いちばん短い父牛で289.3日。父牛が違えば3日以上ずれるということです。
だから予定日は、あくまで目安📅。カレンダーより、目の前の母牛のほうが正確です。
■ 牛の子宮は、二股に分かれている
似ている話が続いたので、今度はまるで違うところを。子宮の形です。
人の子宮は、袋がひとつ。こういうひと部屋だけの形を「単子宮」といいます。
牛は違います。畜産ZOO鑑の説明では「子牛を育てる子宮は、途中で2つに分かれた筒状をしています」。この左右2本に分かれた形が「双角子宮」と呼ばれます。牛のお腹には、部屋が2つあるのです(牛は正確には「両分子宮」に分類されます)。
ふだん使うのは片方だけです。農研機構の妊娠50日の写真には「黄体がある左側の子宮角が太くなっています」とあります。排卵した側の部屋がふくらみ、そこで一頭が育つ。さきほどの212頭も、全部が単子(1頭だけ)でした。
では、もう一つの部屋はいつ使うのか。双子のときです。同じ農研機構の妊娠33日の写真には「両側の卵巣に黄体があり、双子でした」「それぞれの子宮角に胎子がいました」とあります。左右にひと部屋ずつ、一頭ずつ。双子まで同じ袋で育てる人とは、そもそも作りが違うわけです。
■ 最後に
お腹の中で過ごす時間は、人も牛もほとんど同じ280日前後。けれど、その時間を過ごす部屋の形はまるで違いました。同じ「十月十日」でも、中身は同じではなかったのです。
教科書で習う285日は、いまも予定日を出すための大事な目盛りです。ただ、実際の牛はそこから数日ずれてくる。数字を覚えたうえで、目の前の一頭を見る。前回の「角の輪」の話と、結局は同じところに戻ってきます。
🔔 次回予告
【第63回】生まれてすぐ立つ子牛:人の「生理的早産」との違い


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