こんにちは!土佐あかうし先生🐂です。
前回は、生まれた「瞬間」の話をしました。子牛は母牛に舐められて立ち上がり、自分の足でお乳を探しにいく。人の赤ちゃんが1年かけてたどり着く場所に、子牛はその日のうちに立っている、という回でした。
今回は、そのとき子牛が最初に口にするお乳「初乳」の話です。牛を飼う人なら誰でも知っている「生まれたら、まず初乳」。その「なぜ」を、人と比べながら考えてみます。
■ 初乳は、ふつうの牛乳とは別物
初乳とは、お産のあと数日のあいだに母牛から出るお乳のことです。中でも、いちばん最初に出たお乳を指すことが多いそうです。
みなさんが飲んでいる牛乳と同じもの、と思うかもしれません。でも初乳は、人が飲むためには使われません。子牛が病気に負けない力を母牛からもらうための、特別なお乳なのです🍼
初乳には、ふだんのお乳よりもさまざまな成分が濃く入っています。タンパク質や脂肪、ビタミンなど、栄養としての役割も大きいのですが、中でも大切なのが「抗体」と呼ばれる成分です。
■ 抗体は、バイ菌と戦う「武器」
抗体は、専門的には「免疫グロブリン」と呼ばれます。体に入ってきたバイ菌とくっついてその力を弱めたり、白血球の働きを助けたりするもので、よく「バイ菌と戦う武器」にたとえられます。
ある専門の先生は、白血球を「兵隊」、抗体を「武器弾薬」にたとえています。敵が攻めてきても、武器がなければ守りきれません。ところが生まれたばかりの子牛は、まだバイ菌に出会ったことがないため、自分で武器を作ることができないのです。
子牛が自分で抗体を作れるようになるまでには、3週間はかかるそうです。それまでのあいだ子牛を守るのが、初乳で受け取る抗体です。
■ 牛は、お腹の中で抗体をもらえない
では、なぜ子牛は武器を持たずに生まれてくるのでしょう🤔
お腹の中の赤ちゃんは、胎盤を通して母親から栄養をもらいます。ところが、この胎盤のつくりが、牛と人(サルの仲間)とでは大きく違います。牛の胎盤は、抗体のような大きなタンパク質を通すことができないのです。
お腹の中にいるあいだは、母牛に守られていてバイ菌も入ってきません。けれど生まれたとたん、たくさんのバイ菌が、おなかや呼吸の通り道に入ってきます。そのとき子牛は、抗体を持たないまま、ほとんど丸腰で外の世界に出てくることになります。
だから子牛は、母牛の初乳を飲んで、はじめて抗体を手に入れるのです。
■ 人の赤ちゃんは、生まれる前に受け取っている
いっぽう、人はどうでしょう。
人やサルの仲間では、抗体のうち「IgG」と呼ばれる種類が、生まれる前に胎盤を通って赤ちゃんに渡されます。その濃さは、お母さんの血液と同じくらい。みなさんも、生まれた日からお母さんの抗体に守られていたのです✨
ただし、「IgA」という種類は胎盤を通れません。こちらは生まれてから、母乳に入って赤ちゃんに届けられます。IgAは、おなかの中の粘膜など、バイ菌が入りこみやすい場所を守るのが得意な抗体です。
そのため、人と牛では初乳の中身がまるで違います。人の初乳は、9割がIgAで、IgGは1割未満。ところが牛の初乳では、抗体の8割以上がIgGです。
■ 同じ初乳でも、役割がちがう
人の赤ちゃんは、全身を守るIgGをお腹の中で先に受け取り、初乳ではおなかの守りを足してもらう。牛は、お腹の中で抗体を何ももらえない分、全身を守るIgGを初乳でまとめて受け取らなければならない💡
牛の初乳がIgGばかりなのは、そのためかもしれません。専門の先生も、そう考えているそうです。
同じ「初乳」という名前でも、人と牛とでは、背負っている役割の重さがずいぶん違うのです。
■ 最後に
人の赤ちゃんは、生まれる前からお母さんの抗体に守られています。子牛は、その守りを生まれてから初乳で一気に受け取る。「生まれたら、まず初乳」という牛飼いの合言葉には、そんな体のしくみがつまっていました。
元教師としては、同じ哺乳類でも「お母さんからのもらい方」がこんなに違うことに、生き物のおもしろさを感じます📖
では、その初乳は「いつまでに」飲ませればいいのでしょう。実は、子牛が抗体を受け取れる時間には限りがあります。それは次回、お話しします。
🔔 次回予告
【第65回】24時間の壁:初乳は「いつまでに」飲ませるのか

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