こんにちは!土佐あかうし先生🐂です。
前回は、お腹の中にいる時間の話をしました。牛がお腹にいるのは、教科書で乳牛280日・黒毛和種285日。体の大きさはまるで違うのに、人とほとんど同じでした。そのかわり、子宮の形はまるで違う、という回でした。
今回は、その時間が終わった「瞬間」の話です。同じくらいの時間をお腹で過ごしたのに、生まれてきた姿は、人と牛でまったく違います。
■ 人の赤ちゃんは「早く生まれすぎている」
みなさんは、自分が何歳で歩き始めたか、家の人に聞いたことがありますか。
スイスの動物学者アドルフ・ポルトマンは、動物を大きく2つに分けました。生まれてすぐ目が開き、起き上がって走り回れる仔馬のような動物を「離巣性(巣立つもの)」。長いあいだ巣にいて、自分で食べることもできない鳥のような動物を「就巣性(巣に座っているもの)」と呼びます。
では、人はどうでしょう。生まれたばかりの赤ちゃんは、自分では動けず、お乳に近づくこともできません。鳥のように、すべてを親に頼っています。そして生後1年たって、やっと歩き始める。
ポルトマンは、人はお腹の中の赤ちゃん(胎児)のような状態で生まれ、その後の1年を母親のそばで守られて育つのだと考えました。これを「生理的早産」と名付けたのです。
おもしろいのは、人の属する霊長類(サルの仲間)は、もともと「巣立つもの」の側だということ。それなのに、人の赤ちゃんはとても「巣立つもの」とは言えません。
■ 子牛は、生まれたその日に立つ
いっぽう、牛はどうでしょう。
生まれた子牛を、母牛はペロペロと舐めて立ち上がらせようとします。そして1時間ほどで、母牛のお乳を飲みはじめます。生まれてすぐに立ち、自分でお乳までたどり着くのです🍼
黒毛和種の子牛でも、お乳まで2時間かかるといつもより遅いと言われるほどです。
乳牛の子牛を観察した研究では、立ち上がるまで平均73分ほど。早い子と遅い子で、かなりの差があったそうです。生まれてから24時間のうち、立ったり歩いたりしていた時間は合わせて350分ほど。生まれたその日に6時間近く、自分の足で動いていることになります。
牛飼いにとって、生まれた子牛が自分の足で立ち上がるまでは、目の離せない時間です👀
ポルトマンの分け方でいえば、子牛は仔馬と同じ「離巣性」の側に入ると言っていいでしょう。
■ なぜ、すぐに立てるのか
では、なぜ牛は生まれてすぐ立てるのでしょう🤔
実は、その理由はまだはっきり証明されていないそうです。そのうえで、専門の先生はこんなふうに考えています。
生まれてすぐ立つ動物は、お腹の中にいる最後の時期に、内臓だけでなく体を動かす骨や筋肉まで、外に出てすぐ働けるほど育っている。ほかの動物に襲われる危険が高い動物は、生まれてすぐ動けなければ、肉食の動物のえさになってしまう。だから進化の中で、すぐ立てる体が選ばれてきたのではないか。
つまり、牛が生まれてすぐ立つのは天敵に狙われないため。そう考えられています。ただ、これはあくまで想像で、まだ確かめられた答えではないそうです。
■ では、人はなぜ早く生まれるのか
反対に、人はなぜ、こんなに早く生まれてくるのでしょう。
よく知られているのが、「出産のジレンマ」と呼ばれる説です。
人の赤ちゃんの脳は、お腹の中でぐんぐん大きくなります。でも、大きくなりすぎると、お母さんの体から出てこられなくなってしまう。そこで人は、脳がまだ小さいうちに生まれてくるようになった、というのです。生まれたときの脳は、大人の3割弱ほどの大きさしかありません。
そのかわり、人はお産を手伝い合い、みんなで子どもを育てるようになった、と考えられています。ただ、ほかの考え方もあって、まだ答えは出ていないそうです。
人は、ひとりでは育たない生き物として生まれてくる。元教師としては、そこに「教育」の原点があるように思います📖
■ 同じ時間、ちがう生まれ方
人も牛も、お腹の中にいる時間はほぼ同じでした。けれど、その時間の使い方はずいぶん違うようです。
牛は、お腹の中で生まれてすぐ歩ける体まで仕上げてから出てくる。人は、歩く力が育つ前に生まれ、1年かけて親のそばで育っていく💡
1歳でやっと歩き始めるのは、人の赤ちゃんが遅れているからではありません。それが人という動物の生まれ方なのです。
■ 最後に
生まれた瞬間、子牛はもう「巣立つもの」の顔をしています。母牛に舐められて立ち上がり、自分の足でお乳を探しにいく。人の赤ちゃんが1年かけてたどり着く場所に、子牛はその日のうちに立っているのです。
ただ、立ち上がった子牛にも、まだ足りないものがあります。最初に口にするお乳「初乳」が、牛にとってなぜ特別なのか。それは次回、お話しします。
🔔 次回予告
【第64回】命を繋ぐ「初乳」:なぜ子牛に絶対必要なのか


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