【第41回】ミルク飲みから草食へ。子牛の胃袋が劇的に変わる科学

元教師の食育解説
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こんにちは!土佐あかうし先生🐂です。

前回は、牛飼いの本当の仕事は「菌を飼うこと」だというお話をしました。4つの胃と微生物が織りなす発酵タンクの世界、いかがでしたか?

ですが、ここで一つ素朴な疑問が浮かびます。生まれたばかりの子牛も、最初から4つの胃をフル活用しているのでしょうか?実は子牛の体内では、生後数ヶ月で劇的な「胃袋革命」が起きているのです。


■ 生まれたての子牛は実質「胃が1つ」

驚くべきことに、生まれたばかりの子牛は4つの胃の中で第4胃(皺胃/ギアラ)しかほとんど機能していません。第1胃〜第3胃は折り畳まれた風船のように小さく、容量比でみると第4胃が全体の70%近くを占めています。

これは、母乳という「液体の栄養」を消化するためには、人間と同じ単胃の構造で十分だからです。微生物による発酵分解が必要なのは、繊維質の草🌿を食べ始めてからの話なのです。


■ ミルクは胃を素通りする秘密の通路がある

面白いのが、子牛がミルクを飲むときの仕組みです。母牛のお乳や哺乳瓶に吸い付くと、口から食道を通ってきたミルクは、なんと第1胃を素通りして第4胃に直接届くのです。

これは「食道溝(しょくどうこう)反射」という特別な仕組みのおかげ。吸い付く動作の刺激で食道の壁が溝のように閉じ、ミルクが第1胃に落ちずに第4胃へとショートカットされます。

もし第1胃にミルクが入ってしまうと、まだ未発達な微生物環境でミルクが腐敗し、子牛の命に関わる消化不良を起こしかねません。自然の知恵には本当に感嘆させられます。

ちなみに、なんらかの原因でこの食道溝反射がうまく機能せず、ミルクが第1胃へ流れ込んでしまう状態を「ルーメンドリンカー」と呼びます。繁殖農家にとっての悩みの種の一つですが、詳しくはまた別の記事でお話しします。


■ 草を食べ始めて第1胃が一気に発達

生後2〜3週間ほどで、子牛は親や仲間の真似をして少しずつ草や穀物をかじり始めます。これが胃袋革命の引き金です。

ここで決定的な役割を果たすのがスターター(人工乳)です。スターターをしっかり食べさせることで、第1胃の中に微生物が住み着き、繊維や穀物を発酵させて揮発性脂肪酸(VFA)を産生します。このVFAの刺激で、第1胃の内壁にある「絨毛突起」がぐんぐん伸びていきます。

つまり、絨毛突起の発達はスターターをどれだけ食べさせたかで決まると言っても過言ではありません。生草や母乳だけでは発達のスイッチが十分に入らないのです。

生後4ヶ月頃には、第1胃の容量は生まれたときの20倍以上にまで成長。完全な反芻動物としての体が完成するのです。


■ 離乳のタイミングは「胃の準備」を見て決める

プロの牛飼いはこのスターターの摂取量と日数を見て離乳のタイミングを決めます。早すぎる離乳は第1胃の準備が整っておらず、消化不良で発育が止まる原因になります。

私たちの農場では、日数基準で「90日齢で離乳」を基本にしています。それまでに1日2kg(最低)のスターターを食べられる状態に仕上げていくのが目標です。

ただし現場ではうまくいかないケースもあります。たまに1.6kg程度しか食べないまま90日を迎えてしまう子も。そういう場合は離乳後すぐに育成用の餌へ切り替えず、2kg食べられるようになるまでスターターの給与期間を延長します。

子牛の一生を左右する判断を、毎日の観察と摂取量の記録で決めていく──これが繁殖農家の腕の見せどころです。



■ 最後に

ミルクから草食へ──たった4ヶ月の間に、子牛の胃袋は別の生き物のような変化を遂げます。生まれた瞬間からこの胃袋革命をサポートするのが、私たち牛飼いの大切な仕事です。

次回は、生まれたばかりの子牛がなぜ「寒さに弱い」のかをお話しします。大人の牛は発酵熱という天然のストーブを持っているのに、なぜ子牛はそれが使えないのか。皮下脂肪と発酵熱に隠された意外な関係を解き明かします。


🔔 次回予告
【第42回】子牛はなぜ寒さに弱いのか?皮下脂肪と発酵熱の意外な関係

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